2018/07/09(月) 平成30年7月西日本豪雨での役所の活動は素晴らしかった

2018年7月5日から8日にかけて、西日本を中心に梅雨前線を原因とした集中豪雨がありました。

西日本の広い範囲で川の氾濫や洪水、土砂災害などの被害が起こり、この原稿を書いている7月9日13時30分までの総務省消防庁の集計によると、死者80人、行方不明者28人、大きな被害が出ています。

中でも岡山県倉敷市の浸水は凄まじく、朝日新聞が掲載したこの写真が、拡散されました。

今回の災害でも、マスコミ各社は「中央官庁や市町村の対応が良ければ、もっと助かる命もあったのではないか」と、官公庁を批判する論調のところが多くあります。
この報道は、心無いものと言わざるを得ません。
中央官庁も、市町村も、事前からしっかり災害に対応してきているのです。「ここまでやっても批判されるのなら」と、関係各位のモチベーションが下がってしまうのが心配です。

■ハザードマップがきわめて正確だった

全国、どこの市町村でも災害のときにどの地区がどのくらいの被害が出そうか、というハザードマップを作って、ウェブサイトに掲載したりしています。
もちろん倉敷市でもこのハザードマップを公開しているわけですが、これが驚くほど実際の浸水域と似通っているのです。

実際の浸水域

https://www.asahi.com/articles/photo/AS20180707003368.html

倉敷市のハザードマップ

http://www.city.kurashiki.okayama.jp/secure/100849/06mabihunao.pdf

このハザードマップでは、高梁川水系・小田川の降雨量を「2日間で225mm:100年に1回の確率」として掲載しているのですが、今回はまさにこれに該当してしまったのです。
岡山県倉敷市真備町は約8,900世帯もあるのだそうです。今回の集中豪雨では高梁川水系の小田川や高馬川の決壊で約1,200ヘクタールが浸水。これはこの地区の面積の27%にもあたるのだそうです。建物約4,500棟が冠水するなど甚大な被害となりました。
倉敷市のハザードマップ作成者は、この事態を正確に予測して、地域の住民にも伝えていたわけです。市役所は、きっちりとした仕事をしていたのですね。
問題は住民側で、このような正確な予測が出、「大雨特別警報」が出ているのに、早期に脱出するなどの対策を取らなかったのです。「役所の言っていることは100年にいっぺん、とかだろう。大げさだ」「これまでここは安全だったから自分は大丈夫だろう」「まさか、ここが……」といった正常化バイアスをかけてしまい、脱出のチャンスを失ってしまったのです。
これは、我々一人一人の問題です。誰しも「まさか自分が」と思いがちなのです。
これは、コンクリートに固められて、日々自然を感じない都会生活者は更に顕著です。
田舎に暮らしていれば、河川が増水したり、木々が風で揺れ動いているさまを見ることもあるでしょうが、都会生活者は普段はそんな機会があまりない。川は暗渠で塞がれてしまっているからその存在すら日々感じないし、木々なんて公園などにしかありませんから。

東京都でも、各区市町村ごとにハザードマップを発行しています。ウェブサイトでも見ることができます。

【東京都建設局】洪水ハザードマップ
http://www.kensetsu.metro.tokyo.jp/jigyo/river/chusho_seibi/index/menu03.html

自分の暮らしているエリアや勤務先のエリアのハザードマップを見て「この地域の浸水はありうるのだ」ということを、十分自覚しておきましょう。

気象庁の「大雨特別警報」発令のタイミングが素晴らしかった

気象庁は7月6日、「これまでに経験したことのないような大雨となっている」として福岡県、佐賀県、長崎県、広島県、岡山県、鳥取県、兵庫県、京都府に「大雨特別警報」を発令しました。最初に発令された福岡県、佐賀県、長崎県の3県は夕方17時10分の発令でした。福岡県で、昨年も大雨の被害を受けた朝倉市の雨量のピークは1時間129.5mmで、観測されたのは15時38分。この時間帯がピークだったので「大雨特別警報の発令が遅かった」という報道があります。しかし、これも正しくありません。

気象庁では、気象等の特別警報の指標を公開しています。


http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/tokubetsu-keiho/sanko/shihyou.pdf

これによると雨を要因とする特別警報の指標は、

・以下①又は②いずれかを満たすと予想され、かつ、
・更に雨が降り続くと予想される
場合に、大雨特別警報を発表します。

① 48時間降水量及び土壌雨量指数※1において、50年に一度の値以上となった5km格子が、共に府県程度の広がりの範囲内で50格子以上出現。
② 3時間降水量及び土壌雨量指数※1において、50年に一度の値以上となった5km格子が、共に府県程度の広がりの範囲内で10格子以上出現(ただし、3時間降水量が150mm※2以上となった格子のみをカウント対象とする)。

と、明確に規定されているのです。

つまり、その場の雨量ではなく48時間なり3時間なりの降水量と土壌の中の水分量を計算した上で、このような特別警報を発令しているのです。

今回、特に素晴らしかったのは、この特別警報の発令が、まだ日のある夕方になされたことです。雨は昼も夜も関係なく降るので、避難しないと鳴らなくなる時間帯は深夜になることもありえます。実際に、4年前の2014年の広島市安佐南区・安佐北区の土砂災害は深夜に起こっていますが、この際の警報の発令は暗くなってからでした。そのせいで被害が広がったのではないかという反省もあり、今回はまだ日のあるうちの発令となったのだ、ということです。

気象庁のような中央官庁も、市町村も、「公助」の部分は、できることは、きちんとやっているのです。ですから、称賛こそすれど、非難の対象にはあたりません。

そんなことより、自分たちの「まさか自分が被害にあうことなんてないだろう」という正常化バイアスを改め「災害は自分の身にいつ起こるかわからない」という意識を持っていくことが、たいへん重要です。

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